1、シトラスの君

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寧々子は、彼の笑顔を見て余計に頬が赤くなった。 高校生だけど、礼儀正しい言葉遣いにも驚いた。 こんなどこの誰かも知らない自分に対して、キチンと目を見てくれている。 「あ、あのっ・・テニス、はじめて近くで見ました」 「え?」 「かっこいいですね!あんなにスピードもあるなんて思わなくって!」 寧々子は、食い気味に話を続けた。 「高校生なのに、テレビで見るプロみたいで!すごいですね!!」 「い、いやそんなプロだなんて」 「私、テニスのこと全く知らないけれど綺麗だなって思いました」 「・・・ありがとうございます」 はっとなり、彼が困った顔をしていることに気付く。 「すみません・・練習の邪魔をしたあげくこんなこと・・・」 「いえいえ、嬉しいです。ありがとうございます」 本当に良く出来た高校生だ、と寧々子は思った。 「じゃあ、すみませんほんとに・・・」 これ以上邪魔するのは、本当に申し訳ないので帰ろうと言おうとした。 「あ、もう俺も帰るんです。遅いですし、駅まで送りますよ。近くにお住まいですか?」 まさかの彼の発言に寧々子は驚いた。 彼はラケットをしまいながら、帰る準備を整えている。 「い、いえこの近くには住んでませんが、そんな!悪いです・・・!」 「このあたり、夜だと結構暗いので危ないですよ。すぐ終わるので、待ってて下さい」 そう言って彼はコートの近くにある部室らしき建物へ入って行った。 (なぜこんなことに・・・・・・・) 今日もいつもと変わらない1日のはずだった。 それがこんな見ず知らずの高校生と話すなんて・・・ さっき鳴った携帯を見ると、母親からの着信だった。 時刻は22時ーーーーーーーーーーーーーーーー 何時間、彼の練習をみていたんだ・・・と寧々子はため息を吐いた。
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