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その数分後、制服姿に戻った彼が現れた。
「お待たせしました」
「いえいえ、そんな・・・こちらこそすみません」
申し訳なさそうにする寧々子に、彼は笑って大丈夫です、と言った。
それから駅まで、歩きながら色々話をした。
確かにこのあたりの夜道は暗い。
いつも仕事が終わったらすぐ帰っていたので、気付かなかった。
「そうだ、名前なんていうんですか?」
「ゆ、結城寧々子です。あなたは?」
シトラスの香りがほのかに香る。
「犬塚創介、高校3年生です」
「高校3年!若い!!」
寧々子は、高校生と分かっていたものの、思ったことを口に出してしまった。
それを聞いた創介は、?と顔かしげた。
「寧々子さん、大学生でしょ?そんな変わらなくないですか?」
「え」
一瞬、時が止まったように感じた。
(いくら童顔だからって、大学生・・・・!!)
よくよく考えれば、今日の寧々子の服装もTシャツにワイドパンツ、サンダル。
大学生といわれても仕方がない服装だった。
「いいなー、大学って高校より夏休み長いですよね?」
創介は1つも疑わず続けた。
(や、やばい・・・・本当の年齢言ったら引かれる!絶対引かれる・・・!)
もう二度と会う事はないだろう、そう思い寧々子は話に乗ることにした。
一度、足をとめると、少し前を歩いている創介が振り返った。
「う、うん。大学はねー、夏休み長いんだよねえ・・・」
「やっぱり!いま何年ですか?あ、何回生か」
「今は大学2回生・・・」
「へーー!そうなんですね」
創介は頷きながら話を聞いてくれている。
そうこうしているうちに、駅まで到着してしまった。
寧々子は慌てて、創介にお辞儀した。
「今日はありがとう!これからもテニス頑張ってね、じゃあ・・」
「あ!あの・・!」
駅の改札の方へ歩いたとき、創介が寧々子の肩を掴んだ。
「え・・どうしたの?」
創介は寧々子の肩から手離し、掴んでいた手をグッと握り下ろした。
「また会いたいです。良かったら連絡先教えて下さい」
「え」
先ほどまで大人びた優しい笑顔をしていた彼の顔つきは変わっていた。
ーーーーーーシトラスの香りに惹かれて、私は彼を見つけた。
そして、私は嘘をついてしまったーーーーーーーーー
⇒つづく
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