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春一は鈴音の背中に腕を回し、布団の上から上体を起こしてくれる。
「大丈夫?」
夕べから、春一からこの言葉しか聞いていない気がする。
鈴音はなんとかコクンコクンとうなずいて、そっと春一の胸に顔を埋めた。
本当はしがみつきたかったけれど、体が動かない。
怖くて、全身の震えを止めることが出来ない。
でもドクンドクンと聞こえる春一の力強い心音に、ようやく少し安心出来た。
「……ふうっ」
気が抜けたら涙が出てきた。
そんな鈴音に気が付くと、春一は叔父をギリリと睨み付け、首から下げたカメラを見せる。
「証拠はここに揃ってる。これ以上、鈴音を傷つけるようなマネをしたら、社会的に抹殺するぞ」
それから、
「行こう」
力強く鈴音の腕を引っ張る。
寝ていた布団から力づくで起こされた。
なんとか立ち上がってみれば、鈴音のジャージの胸元がはだけている。
叔父に外されたファスナーを、春一は何も言わずに、両手で上まできっちりと上げてくれた。
それから襖の前でうずくまっている叔父から隠すように、鈴音の肩を抱いて玄関へと歩き出す。
春一は土足だが、鈴音の靴は玄関にある。
不安に見上げる鈴音の視線に応えて、
「……俺の家に行こう」
春一は柔らかく微笑む。
「もう、大丈夫だから」
肩を抱く腕にギュッと力が加えられる。
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