エピローグ

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だから春一は、狭間の存在を世間に公表しないことを条件に、広瀬を銀行社会から切って捨てる案を狭間に持ちかけた。 広瀬を追い詰めるタバコの件は、放火として追求するには確証が弱すぎるが、めぐみを愛人として囲っていたことは、仕事から失脚させる手段になる。 そして事件の要となる不正融資の証拠書類も、今は春一の手元にあった。 この2点を、本店取締役の狭間の手に渡せば、広瀬を追い落とすことは容易だ。 そして狭間の立場と権力があれば、広瀬を永遠に銀行から切り離し、鈴音と関わらない場所に追いやることが可能なのだ。 事件を世間的に公表することが当初からの春一の目的だったが、それをすれば、広瀬と狭間の両方を追い詰めてしまう。 そうなれば窮鼠猫を噛むの例の通り、今後、鈴音にどんな危険が及ぶかわからない。 美里の無念を晴らすことが、春一の誓いで春一の生き方のすべてだったはずが、そんな春一の全部を、鈴音は変えてしまった。 鈴音の身を守るため、春一は狭間に目をつぶった。 でもその選択は、春一が、自分自身を一生許さない理由になるだろう。 でも、事件に巻き込み、騙し、危険な目にあわせてしまった鈴音への、これが、春一が唯一できる唯一の償いなのだ。
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