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耳につんざく音を響かせて、救急車が何台もやってきた。
「怪我をされた方はいませんか?」
声に誘われるように、鈴音はふらふらと前に出る。
でも、ドンと背中を押されて、その場に膝をついた。
「すみません!」
鈴音を突き飛ばした救急隊員は謝ってくれたけれど、小脇に真っ青な顔色の人を抱えている。
「煙を吸い込んでいます。至急搬送お願いします」
転んだ鈴音のことなど、目もくれない。
鈴音は、幸い怪我はしていない。
二階の部屋という立地の良さと、出火が上階からだったという幸運で、いち早く逃れることが出来た。
でも……、
鈴音が持っていた何もかもが、今、灰に帰している。
みんな重症の人に精一杯で、みんな自分のことに夢中で、誰も鈴音のことなんか気にとめない。
「――」
鈴音は、自分の体をギュッと抱きしめる。
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