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1 賑やかな兄弟たち
春一の住むマンションに到着したのは、早朝の6時半だった。
春一の家族は、まだ寝ているのではないかと思ったが、
「ナツキ、俺の上着どこだよ!」
「そんなもん知るか。どうせどっかに脱ぎっぱなしだろ」
「夏兄、もう食べてもいいの?」
「ああ、ゆっくり食え」
春一の家は戦場のようなにぎやかさだった。
少し長めの髪をした男の子が、Yシャツ一枚の姿で、ブレザーを探して家中を走り回っている。
背の高い、赤い髪を後ろでひとつに括った男性がエプロン姿でしゃもじを持っている。
テーブルに座る色白のおとなしそうな男の子にご飯をよそって渡していた。
体に合っていないぶかぶかのジャージ姿で、いきなり玄関に現れた鈴音のことなんて、誰も見向きもしない。
「秋哉、冬依のウインナー横取りすんじゃねぇ」
走り回っていた男の子がテーブルにつくなり、おとなしそうな子の皿からパクリとつまみ食いをして、赤い髪の男性に怒鳴られていた。
「……」
鈴音が呆れて見ていると、
「みんな、おはよう」
隣で春一が大声をあげる。
鈴音はびっくりして身を縮ませる。
でもそれでようやく、みんなの視線がこちらを向いた。
さっきまでうるさいほど騒がしかったのが、しんと静まり返る。
春一は小さく息をつきながら言う。
「紹介するよ鈴音。上から夏樹。鈴音と同じ年だよ。それからあっちが高一の秋哉、中学生の冬依(トウイ)。みんな俺の弟で、ここで兄弟4人で暮らしてる」
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