2 来生夏樹

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2 来生夏樹

目が覚めて、一瞬、自分がどこにいるのかわからなかった。 でも壁際の並んだカメラを見やって、 「ああ、ハルさんの部屋だ」 ゆるゆると記憶を取り戻す。 ベッドサイドの机に置かれた目覚まし時計を見れば、午前11時20分。 3時間以上も寝ていたことになる。 その間、夢も見ずにぐっすりと眠れたのは、春一の匂いがするこのベッドのお蔭だろうか。 トイレに行きたくなって、ベッドから滑り降りた。 「あたっ」 とたんに長い裾を踏んづけて転びそうになってしまう。 春一のスゥエットが大きすぎるのと、自分の短い足が原因だ。 これだけ目の当たりにすると、さすがに落ち込む。 「――もう」 悪態をついて、ついでにスゥエットは脱いでしまうことにした。 春一は昼過ぎまで帰らないと言っていたし、上に着ているトレーナーも、腿の上あたりまで覆うほどに大きい。 トイレまで行って戻ってくるだけなら、すぐだし十分だろう。 こそりと部屋のドアを開けてリビングを伺うと、幸いなことに誰の気配もない。 秋哉と冬依は学校に行ったし、夏樹も普通なら仕事に出かけているはずの時間だ。 ならば家には、今は鈴音ひとりという可能性が高い。 少し安心して、リビングを抜けて廊下の方に歩いて行った。 廊下へ出ると、遠目に見える玄関には、ちゃんと鍵がかかっている。 右側にふたつ並んだドア。 確かひとつがバスルームで、ひとつがトイレだったはずだ。 「さてと……」 何の気なしに手前のドアを引きあけると――、 「!」 バスタオル一枚だけの男がそこにいた。 頭から被ったタオル越しに、驚いた瞳が鈴音を捉える。 思わず鈴音は、 「キャァ――……」
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