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3 来生冬依
夏樹とふたりでマンションに帰ると、春一がリビングのテーブルで調べ物をしていた。
タブレットを脇に置き、手帳にボールペンを走らせている。
「おかえり。遅かったね」
顔をあげた春一はメガネ姿だ。
春一がメガネをかけた顔を見るのは初めてで、ちょっとインテリっぽく見えてドキリとする。
「夏樹?」
鈴音に続いてリビングに入ってきた夏樹を見て、春一は怪訝に首を傾けた。
そして夏樹の引っかき傷だらけの顔を見とがめると、
「なんだ夏樹。またケンカか?」
呆れたように言う。
「ち、違うの。夏樹は私を守ってくれようとして――」
「夏樹?」
鈴音が夏樹の名前を呼び捨てにしたのを、春一は耳ざとく聞きとがめると、夏樹は腕を出して鈴音を止める。
そして椅子に腰掛けている春一を見下すように顎をあげて、
「そんなんじゃねーよ。ばーか」
悪態をついた。
そのままクルリと背を向けて、自分の部屋へ行ってしまいそうになるので、
「待って夏樹、手当てするから」
鈴音は追いかけるが、
「いらね」
夏樹は素っ気なく、さっさと自室のドアを開ける。
その背中を追うように春一が怒鳴った。
「おい。また冬依が熱をだしたから」
夏樹はチラリと振り返ると、
「チッ」
小さく舌打ちして、パタンとドアを閉めた。
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