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「名前で呼ぶなって言ってるじゃん!」 食堂にテーブルを叩く音と女性の怒鳴り声が響いた。 その突然の音に俺はそれまで考えていたことを中断させられ、文句を呟きながらゆっくりと振り向いた。 2、3つ離れたテーブルで女性が立っている。それは同じ学部の山崎さんだった。クラスは違うから良くは知らないけれど、いつもゆるふわな恰好をしていて、優しそうな女性だ。 「何度言ったら分かるの!」と普段とは違う形相で再び怒鳴り、そのままの勢いで食堂を飛び出した。 彼女の前にいた男性は知らない学生だった。ばつ悪そうに下を向きながら、固まっている。見事に注目の的になっているのだから余計に仕方ない。まだ食堂に人が少ないのがせめてもの救いだろう。 「ねえねえ、今の山崎さんだよね」 少しの静寂が終わり、周りはこそこそと話し始めた。目の前にいる由紀も例外ではない。 「どういうことだろう、山崎さん、そんなに変な名前だったっけ。知らないけど」 「よほど嫌な名前なのかな」そう思うと同情する。同情して共感する。 なによりもびっくりしたのが、あの山崎さんが怒鳴ったことだ。あのゆるふわで童顔な山崎さんが、だ。 「それにしても、まさかあのゆるふわな山崎さんが怒鳴り散らすとはねー。祐太も見たでしょ、あの形相。びっくりだよねー。男からしたらショックなんじゃないの。」由紀もゆるふわだと感じていたらしい。山崎さんがゆるふわなのは世界共通なのかもしれない。 「びっくりはしているけど別にショックではない。」というよりも、怒ればみんなそんなもんだろう。 かわいい子はいつでもかわいい、何が起きてもかわいい、なんてことはない。
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