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旧帝国軍の地下基地だと、案内人は説明をする。
それを熱心そうに、尊大な様子で聞くのは白髪の老人。
その隣りには、ゴシックな黒いワンピースを着た、黒髪を腰まで延ばした少女。ただ、大人めいた印象を受けるのは、その表情に一片の笑みもないからか。
二人は、黒い背広を着た案内人と共に長い廊下を歩く。
煉瓦で作られ裸電球で照らされた、薄暗い通路の行き止まりは、クラシカルな通路らしからぬ、銀行の金庫を思わせる扉。
その上には監視カメラが数台あり、来訪者を見詰めている。
「どうかなイチ? 緊張するか?」
少しお待ちを、との言葉を案内人から受け、老人が少女を見下ろし問い掛ける。
「……ええ、おじ様。わたくし緊張しております」
老人を見上げ、上品そうな微笑みを浮かべる少女。
ただ、その切れ長で黒目がちの瞳は冷たく光るままで、丁寧な口調の奥にも、言葉の信憑性を薄める響きを感じ、老人はあからさまに落胆のため息を漏らした。
そんな老人に、少女はもう一度微笑を向ける。
あまりにも、儀礼的な笑みを。
「お待たせ致しました」
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