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夏休みに入っても、高柳君から連絡はなかった。
そもそもそんなに親しい間柄じゃなかったんだし。
ちょっと機嫌を損ねたくらいで………こんなに落ち込まなくてもいいじゃない。
なんとか自分を奮い立たせた。
夏休みに入ってすぐ。
私とお母さんと敦也で、隣の県で単身赴任をしているお父さんに会いに行った。
新幹線を使えば1時間もかからないから、月2回はお父さんもうちに帰ってくる。
久しぶりにお父さんに会うお母さんは嬉しそうだ。
「お父さんは魚が好きだから、お刺身を買ってあらだきして………」
と、お父さんに作ってあげたい料理で頭がいっぱいらしい。
敦也は荷物持ちさせられてブー垂れている。
でも、お父さんの住んでいる社宅は海辺が近く、お父さんと釣りに行くのを内心楽しみにしているのだ。
そんな感じで一週間お父さんのところで過ごした。
久しぶりの家族団らんで私の気持ちもだいぶ軽くなった。
明日自宅に帰ろうかという日。
「お母さん、暫くお父さんのところに残ることにしたから♪」
「え?」
「は?」
結婚して17年のうちの両親は今でも仲が良くて。
それはそれでいいことなんだけど………。
「千笑、敦也のことよろしくね」
「はい………」
夏休みの宿題は自宅に置いてきたままだった私と敦也はこれ以上こちらに滞在する訳にもいかず、二人だけで戻ることとなった。
新幹線と電車を乗り継いで、ようやく小手毬駅にやってきた。
電車から降りた途端、もわっと生ぬるい空気が体中にまとわりつく。
「………暑い」
「姉ちゃんも少しくらい荷物持ってよ」
「あ、アイス買おうかな~」
片手に自分の荷物、もう片手にはお母さんに持たされたお土産。
終始荷物持ちの敦也はうんざり顔で私の横を歩く。
「敦也もアイス食べる?」
「荷物持たせといて、よくそれ聞けるよね?」
「じゃあ、うちで凍らせておいたプリン、敦也にあげる」
「まぁ、それで手を打つか」
私は改札を出たところにあるアイスの自動販売機にお金を入れると、クッキー&クリームのボタンを押した。
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