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───それはここの高校に入学してきて、三か月となった六月下旬の昼休みのことだった。
高校に入ってから仲良くなった三苫萌(ミトマモエ)ちゃんと、食後まったりと過ごしていた。
私の前の席の萌ちゃんとは、中学は違うものの同じクラスになってから仲良くなった。
いわゆる名簿順の前後同士。
さばさばとした性格の萌ちゃんとはすぐに意気投合した。
そしてその時、萌ちゃんと駅前に置いてあったフリーペーパーを見ていた。
住んでいる街の最新の情報がいっぱい載っていてそれが無料で配られているとはかなりお得だ。
『あ!私、この映画観たい!』
シネマ情報コーナーで新作紹介されていた記事を指差して私は萌ちゃんに訴えた。
私の大好きな俳優さんがヒロインの相手役をしているその映画は、私が一番ハマっていた少女漫画が原作という、あまり映画を観ない私すらも魅了するものだった。
『えー、私パス』
『えぇっ!?なんで!?』
『だって、そんな甘ったるいラブストーリー、私苦手だもん』
確かに萌ちゃんはこういった甘ラブものは趣味じゃない。
どちらかと言えばアクションやサスペンスものを好む。
『えー、そんなぁ。一緒に行こうよー』
『ムーリー』
『そんなこと言わないで!
私、1人で映画なんて勇気ないよー!』
『私はそれを黙って観る方が耐えがたい』
『えぇぇ……』
1人映画なんてする度胸のない私は、唯一のパートナーを説得できずにうなだれた。
その時だった。
『……その映画観たいの?』
後ろから突然私たちの会話に入り込んできた声に、反射的に振り向いた。
『高柳君!?』
萌えちゃんの驚いたような声が響いた。
それもそのはず。
この学校で一番のイケメンと名高い高柳君がいたから。
突然のイケメンの登場に、萌ちゃんも少しばかり頬がピンクに染まっているような気がする。
だけど、いくらイケメンだとは言え、いきなり私たちの会話に参加してきた高柳君を歓迎できるほど私は親しくはない。
………むしろ私はこの高柳君がとても苦手だったから。
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