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「んー、冷たくて美味しい♪」
アイスにかぶりつきながら、敦也と二人で駅を出た。
「うぇー、暑い。
姉ちゃん、タクシー使おうよ」
「えー、お金がもったいない」
「アイスは買ってるくせに、ケチくせーなー」
ブツブツ煩い敦也を交わし、私はふと駅前のカフェ“hydrangea”の方が気になった。
………高柳君、今日はバイトの日なんだろうか?
気にはなるものの敦也の手前、あまりカフェの方をジロジロ見ることもできずにいた。
「隙アリっ!!」
「───あぁっ!!」
ボーっとしていたら、横から私のアイスに敦也がかぶりついてきた。
「ちょっと、これお姉ちゃんの!」
「一口くらいいいだろうが。こっちは荷物持ってんだから少しくらい労えよ」
ホント、可愛くない弟!
でもこの暑い中、額に汗かいて大荷物を持っている敦也を見ると少し可哀想になってきた。
「じゃあ、もう一口だけあげるよ」
仕方なくアイスを差し出せば、敦也が嬉しそうにアイスをかじった。
「あ、一口大き過ぎるっ!」
「へへ、もう返せませ~ん」
小憎たらしく歯を見せる敦也にイラッときた時だった。
「───千笑っ!!!」
名前を呼ばれたと同時に、アイスを持っていない方の腕を掴まれた。
「へ?」
驚いて振り返れば、白シャツに黒いギャルソンエプロンを巻きつけた姿の………高柳君がいた。
「た、高柳君………?」
うわ、その姿何!?
めっちゃ似合ってるし、カッコいいんだけど!?
働く男と言えば、くたびれた作業服姿のお父さんしか知らない私は、余りにも素敵過ぎるその姿に思わず見惚れてしまった。
「その男………誰だよ、千笑!」
「は、はい??」
自分の名前を呼ばれ、違和感を感じつつも条件反射で返事をした。
そう言えばさっきも“千笑”って呼ばれたことを思い出す。
で、でもなんで高柳君が私のことをそう呼ぶわけ!?
突然現れた高柳君と、慣れない下の名前呼びに、訳が分からずただ混乱した。
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