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目が覚めると、木でできた小屋の中に私はいた。
ゆっくり体を起こし、辺りを見回す。外に繋がるであろう扉と小さな天窓以外なにもない、シンプルな小屋。
ふと、扉を開けて若い男の人が入ってきた。男の人は私を方を一瞥して優しく微笑み、手に持った食事を置いて帰っていった。
この食事は私のものだろうか、食べていいのだろうか。
そんなことを考える前に体は動いていた。目が覚めてからずっと鳴っていたお腹を鎮めるために、必死に口から胃へ、食事を運ぶ。
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置かれた食事を綺麗に食べ終え、天窓を仰ぐと既に日は沈み、空には月が昇る。
小屋の外はどうなっているのだろうか。気になり扉に近付いたとき、背後から野獣の唸り声が聞こえた。
思わず振り返るも、それはどうやら小屋の壁の向こうから聞こえてくるようだ。
ひとまず安心するも、小屋の外に出る気は無くなった。
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それから毎日、男の人が持ってきた食事を食べ、小屋の中で過ごす日々が続いた。
私の食事中に男の人が入ってきたこともあり、私の頭を撫でながら「いっぱい食べて大きくなれよ」と微笑んだ。
その暖かい手のひらが、私は大好きだった。
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その日もいつも通り、男の人は小屋に入ってきた。
ただその手には食事とは違うものが握られている。
鈍く光る、刃物。
男の人の優しかった手のひらに握られたその刃物を私に向けると、彼は笑顔で呟いた。
「今日はマリアの誕生日だからな」
最期に天窓から覗いた空は、血と涙で滲んでよく見えなかった。
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