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「ハッピーバースデートゥーユー♪」
もう二十一日も前の事だ。ずっと覚えていたかったはずの『二十一日前』という日だ。忘れたくなんかないのに今ではもう思い出したくもない。
「ハッピバースデーディア凛ちゃーん♪」
ぼくたちの楽しげな歌声。十本のローソクが刺さったケーキ。それを見つめる友達。今か今かと、ゆらゆらともる火を消そうと口を尖らせている。おばさんもおじさんも、その光景を微笑ましく見ていた。
なんでぼくはこんな動画を繰り返し見ているんだろう。
「これお前のクラスの子じゃね? 家にも来た事あるよな?」
彼よりも五つ年上の兄が、部屋にやって来たのはつい五分前だ。
彼は、恨みも込めた目で、動画の流れるパソコンから兄に目を向けた。言いたくはないが、
「うん」
と。たったそれだけの声を出すのも、首を絞められているように苦しかった。
隣では、母がその言葉を皮切りに告げた。
「それ凛ちゃんの奴でしょ? 今朝ニュースでやってたけど、担任の高尾先生も共犯だって。明日から学校どうなるのかしら……」
とてつもなく能天気で無関係な言い方に、腹が立った。例え親身な言い方をされたとしても、今度は母さんに何がわかるんだよと突っかかっているだろう。
『彼』は爆発寸前だった。
思い出したくもない。一昨日の誕生日をではなく、担任の顔を。
肝心の共犯者の片割れは自殺。罪の意識なんかあるもんかと、画面のひょっとこ男を見た。
母は尚も世間話の延長のような口ぶりで続けた。
「高尾先生、年明けには子供生まれるって言ってたのに……奥さん大変ねぇ」
「子供……?」
『彼』は呟くと、画面が暗転したパソコン画面には笑みを浮かべた顔が映っていた。
「男と女どっちかしらねぇ、高尾先生の子供」
『零時事件』が解決した今、もう零時の名をTVから聞くことも無いだろう。
「女の子が良いなぁ」
今はまだ小さな、この殺意が咲く時までは・・・
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