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「ハッピーバースデートゥーユー♪」
ほんの三日前の事だ。いつもは曖昧な『三日前』という日だ。三日前の六月二〇日だって、いつかは曖昧になるはずだった。
「ハッピバースデーディア凛ちゃーん♪」
愛娘の友達による楽しげな歌声。十本のローソクが刺さったケーキ。それを見つめる娘。今か今かと、ゆらゆら燈る火を消そうと口を尖らせている。妻も彼もその光景を微笑ましく見ている。
なんだってこの女はこんな動画を見せているんだ。
「こちらは、娘さんで間違いないですか?」
自分よりも年下の婦警が、家にやって来たのはつい五分前だ。
滝沢 圭司は、恨みも込めた目で、動画の流れるパソコンから婦警に目を向けた。言いたくはないが、
「はい」
と。たったそれだけの声を出すのも、首を絞められているように苦しかった。
隣では、妻の真夕がその言葉を皮切りに、泣き出した。
「わかりました。それでは先日行方不明という事で捜索願を出されましたが、以降は殺人事件として捜査を切り替えます」
とてつもなく事務的で淡々とした言い方に、腹が立った。例え親身な言い方をされたとしても、今度はあんたに何がわかると突っかかっているだろう。
圭司は爆発寸前だった。
思い出したくもない。一昨日の誕生日をではなく、自分自身を。
消えてくれと切に願った。順調だったのに。どこのクソ野郎が人生を狂わせやがった。
就職だってした。無事に結婚だってした。子供だって生まれた。育てた。それを……。
「この事件はマスコミも大々的に扱っているので数日はこちらに押し掛けるかもしれません。くれぐれも犯人を刺激するような言動は慎んでください」
婦警はノートパソコンを片付けると立ち上がり、玄関に向かう。早速解決に向けて動いてくれようとしている。
あの時もこれだけ早かったのだろうか。
決して、口にはしまいと、圭司は口を閉じた。だが、心は叫ぶ。
もう一度、俺は人を殺す。この犯人を。必ず。この俺が。誰にも裁かせてなるものか!!
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