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1──六月二十二日
ローズパレスの505号室という、ガランとしたマンションの一室で、渋谷第二警察署──通称『渋二』の婦警の小柳 未來と後輩の警官である神田 学 は溜め息を吐いた。
通報があって来てみれば、見渡す限り何も無い。
普通のフローリングに白い壁紙の一室だ。
「本当にここに誰かいたんですか? 無駄足ですよ」
「無駄かどうかはこれから決める。まずは調べてみてから」
通報の内容はというと、少女の叫び声が聞こえたというものだ。楽しんでいる様子でもなく、悲鳴だったと。
心当たりはあったからこうして来てみたわけだが、少女どころか人がいた気配も無い。だが、鍵は開いていたから空き家でもない。
「あの女の子……だったりしますかね?」
考えたくはないが、こうも順調に事が続くと、そうとしか思えなかった。
今朝から、立て続けに四件もの通報がある。都内の四か所で、少女の四肢が発見されているのだ。残りは胴体で、もしかしたら頭部も別な場所にあるかもしれない。
その解体場所になったのがここかもしれないと来てみたわけだ。
犯人は完璧だと、未来は唇を噛んだ。
血痕どころか指紋一つ発見されない。気配さえも。
「風呂場もトイレも調べましたが、何も発見はされませんでした」
鑑識の一人が当たり前のように言う。
指紋採取も意味は無し。挙句、
「大家によると、この部屋を借りていたのは孫 高来という中国人ですが、勤め先に電話してみたところ、先月契約を終えて帰国しているそうです」
打つ手無し。事件の当初などそんなものだと未來はなんとも思わないが、学は部屋を眺めては、落胆しきりでぼやく。
「収穫無しですかぁ?」
「何も無いってことが収穫。あとは付近の住人に聞き込みだけど、ちょっと車に戻って休憩しよ」
未来は昨日、行方不明になったという少女かもしれないとも思った。
捜索願を出しに来た父親は、酷く混乱しているようだった。
「昨日誕生日を迎えたばかりで、十才なんです。どこかに遠出するはずもないのに帰って来ない!! 怒った事だって無いんですよ。言葉遣いだって気を付けているし、娘の前では虫だって殺したことないんです!! 本当です!!」
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