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誰もそんなことは聞いていないのに、自分がいかに無実かを主張してくる。それが強烈な違和感を生んだが、まさか自分の娘の四肢を切断はしないだろう。
もし、このバラバラの四肢が娘のものだと分かったとき、あの男は──滝沢圭司は正常でいられるんだろうか。
ぼんやりとそんな事を考えながらマンションを出て、パトカーに乗ろうとした時、未来は声を掛けられた。
「何かあったんですか?」
振り返ると、やたらとこの事件現場には似つかわしくない、ふわふわした雰囲気の男がマンションを見上げていた。
薄茶色の髪もサラサラで、色も白い。オシャレなカフェでパフェでも食べてそうだと思う男は、未來の〝ど〟ストライクだった。
「まだ調査中で一般人には教えられないから、ゴメンね」
「悲鳴があったって通報があったんだけどさ、多分殺人事件なんだけど無駄足だったんだよね。君、この辺の人? 何か知らない?」
学がぺらぺらと話すのは許し難がったが、中々良い質問だと聞かなかった事にしてやった。
男は、眉を潜めると、
「殺人……ですか? ボクは近所でも無いしわかりません。ごめんなさい」
あぁ……可愛い。未來は高まるテンションを抑えつつ、
「いやいやいや謝らなくても良いから。それよりも……学、早く帰るよ!!」
「いや、まだ付近の住人に聞き込みしないと……あの、顔赤いですけど、どうしたんですか」
「なんでもない」
それよりも、君の名前は? 歳は? と聞こうと思ったが、制服姿の警官に聞かれるのは事情聴取みたいで気分が悪いだろうと、泣く泣く我慢した。
「じゃあ、婦警さんたちも頑張ってください」
実に愛想の良い笑みで男は去って行った。懐いたポメラニアンみたいだと、未来は『ぺたんぺたん』と抜けた音でも出そうにゆっくり歩く男の姿を見ながら思った。
隣に残っているのは芋臭い男で、これからこの男と、聞き込みに回ると思うと泣けてくる。
「なんで同じ人間て生き物でこうも差があるんだろう?」
「どうしたんですか?」
「学はカフェとか行く?」
「いえ、コーヒーだったら自販機があるじゃないですか。あ! 買って来ましょうか?」
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