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本人としては、よく出来た後輩だと思ってくれると思ったのに、ものすごくガッカリしたような顔で首を振られたから、先輩が何を言いたいのかわからず、困惑する一方だった。
五階建てのマンションにはワンフロアに六部屋ずつある。例の一室は『505』号室。それを除けば二十九部屋。
総員四名で手分けして聞き込みに当たるも、平日の日中では留守が多い。応対してくれた十三部屋の住人からは何の情報も無い。
「本当に無駄でしたね……」
「無駄無駄言わない。捜査はこうやって地道にやるもの……」
「どうしたんですか?」
パトカーの先に何か落ちているのを未來は見つけた。駆けよってみると、それは財布だった。
「いくら入ってますか?」
「問題はそっちじゃないっての。落とし主がわかれば早いし、失礼しま~す」
使い古されたような折り畳みの財布を開けると、免許証と、名刺が入っていた。その名前は一致している。
「署に帰って遺失物として届けておきましょう。僕がやっておきますよ」
学は手を出すが、財布を握りしめたまま未来はパトカーに乗り込んだ。
「あの、小柳さん?」
「馬鹿! わざわざ署に取りに来てもらうのも大変だろうし。これは私が責任を持って届けるから」
「どうやって……」
「名刺があったからそれに電話する」
免許証の写真は、さっき見たばかりの顔だった。さっさと今日の仕事が終わって欲しいところだ。未來は緩む顔を必死に唇を噛んで堪えた。
それが他の三人には酷く歪な表情に見えて、何を考えているのかさっぱりもわからなかった。
「でも、それって警官としてどうなんですか?」
運転している警官の一人、板橋が言う。
「こういうのは早い方が良いですし。きっと彼も財布が無くて困っているだろうから良いんです」
『宮間灰人』。二十六歳。未來の一つ年下だった。もっと下かと思っていたけど、別にそこは問題無い。
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