The KILL

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 連れて行かれた店は、静かな店で雰囲気も良い。普段は絶対に来ない。ましてや、ビールをがぶ飲み出来るような雰囲気も無い。  外で酒を呑むと言えば、いつもチェーンの居酒屋だから新しい世界が開かれたようでもあり、これを望んでいたんだと、カウンター席で隣に座りながら未来は心の中で喚起した。  少し離れたテーブル席の男はグラスに注がれたビールを楽しんでいる。ビールってジョッキで飲むものじゃないの!? そんな意外な新世界の飲み方に、未来は驚いた。  薦められたカクテルを飲んだ未来を見て、灰人は切り出した。 「お昼の事件は進展した?」 「……それは言えないかな」 「そうだった。あの男の人が話してくれたからつい」 「あれは後輩で学。口が軽くて困るよ」 「未來さんは口が堅い分顔に出るね」 「……どういうこと?」  少し、イラッと来た。あまりに軽妙な口のせいか、それとも、アルコールが入ったせいか。 「進展はしていない。駅に来た時、顔が険しかったからそうかなって」  落ち着け、私。惑わされるな。何かを聞き出そうと誘った? 刑事としての理性と意地が、未来にそう思わせた。やり返してやる。 「灰人君は? あんな所で何してたの?」 「あの辺りにある洋菓子店に用があって。シュークリームが絶品てネットで評判だったから行ってみたんだけど……財布が無くて」  笑うと少年のようだった。無駄な邪推はよそうとその顔に思わされ、残ったカクテルを飲み干した。 「弱いのに大丈夫?」 「あ……うん! 大丈夫大丈夫。もし酔い潰れたら灰人君ちに持ってっちゃって良いからさ!」  むしろそうして!! 我ながら名案と思ったが、生まれてこの方酔い潰れた事が無いため、上手く演技出来るのかもわからない。  灰人はそんな未来の提案に笑うと、 「拉致とかで逮捕されない?」 「しないしない。いい大人が寄って持ち帰られようと自業自得ってやつだって!」  なんと言おうと、絶対に家まで送り返してくれそうなタイプではあるから、未来もそんな事を言えた。  結局、二時間ほど会話と酒と料理を楽しんで、お互いに岐路に着いた。酔い潰れるどころか、しっかり二本足で立っていられるし、まだまだ走れるレベルだった。
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