3人が本棚に入れています
本棚に追加
連れて行かれた店は、静かな店で雰囲気も良い。普段は絶対に来ない。ましてや、ビールをがぶ飲み出来るような雰囲気も無い。
外で酒を呑むと言えば、いつもチェーンの居酒屋だから新しい世界が開かれたようでもあり、これを望んでいたんだと、カウンター席で隣に座りながら未来は心の中で喚起した。
少し離れたテーブル席の男はグラスに注がれたビールを楽しんでいる。ビールってジョッキで飲むものじゃないの!? そんな意外な新世界の飲み方に、未来は驚いた。
薦められたカクテルを飲んだ未来を見て、灰人は切り出した。
「お昼の事件は進展した?」
「……それは言えないかな」
「そうだった。あの男の人が話してくれたからつい」
「あれは後輩で学。口が軽くて困るよ」
「未來さんは口が堅い分顔に出るね」
「……どういうこと?」
少し、イラッと来た。あまりに軽妙な口のせいか、それとも、アルコールが入ったせいか。
「進展はしていない。駅に来た時、顔が険しかったからそうかなって」
落ち着け、私。惑わされるな。何かを聞き出そうと誘った? 刑事としての理性と意地が、未来にそう思わせた。やり返してやる。
「灰人君は? あんな所で何してたの?」
「あの辺りにある洋菓子店に用があって。シュークリームが絶品てネットで評判だったから行ってみたんだけど……財布が無くて」
笑うと少年のようだった。無駄な邪推はよそうとその顔に思わされ、残ったカクテルを飲み干した。
「弱いのに大丈夫?」
「あ……うん! 大丈夫大丈夫。もし酔い潰れたら灰人君ちに持ってっちゃって良いからさ!」
むしろそうして!! 我ながら名案と思ったが、生まれてこの方酔い潰れた事が無いため、上手く演技出来るのかもわからない。
灰人はそんな未来の提案に笑うと、
「拉致とかで逮捕されない?」
「しないしない。いい大人が寄って持ち帰られようと自業自得ってやつだって!」
なんと言おうと、絶対に家まで送り返してくれそうなタイプではあるから、未来もそんな事を言えた。
結局、二時間ほど会話と酒と料理を楽しんで、お互いに岐路に着いた。酔い潰れるどころか、しっかり二本足で立っていられるし、まだまだ走れるレベルだった。
最初のコメントを投稿しよう!