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「ぎぃにゃぁぁぁ! この坂、急すぎますー!」
「おい、こっちに来るな! というか止まれ!」
「ど、どうやってですかぁぁ!?」
金髪少女が泣きそうな顔で俺に問う。どんだけテンパってるんだよ。普通に止まれって。
「ブレーキだよ! ハンドルのところにあるだろうが!」
「あぁ! そ、そうですね! えいさっ!」
ちりんちりん。
「ドジっ子か! それベルだから!」
「ソーリー! こっちでしたか! そいやっ!」
金髪少女がブレーキを握る。ふぅ……危ないところだった。
というか、ベルは絶対に狙ったボケだろ。そもそも「えいさっ!」とか「そいやっ!」とか、掛け声がわざとらしいんだが……まぁでも外人だしな。誰か身近な日本人が面白半分で変な日本語を教えたのかもしれない。
ま、なんにせよ、これで事故は回避され――。
ぶちん。
「ブ、ブレーキのアレが千切れましたぁぁぁ!」
「だからドジっ子かって! というかなんで切れた!? お前ゴリラなの!?」
明らかに人間の握力じゃない。この金髪少女は、林檎を余裕でクラッシュできる握力をお持ちのようだ。
「オーノー! このままぶつかって自転車が大破したら、学校に遅刻してしまいます!」
「遅刻より俺の心配をしてくれませんかねぇ!?」
しかも大破って。人とぶつかっても自転車は壊れないだろ。むしろ壊れるのは俺の体だ。
と、それどころじゃない。このままではぶつかる。
金髪少女との衝突を避けるため、素早く右に動く。が、同時に彼女も俺と同じ方向にハンドルを切った。
「うぉぉぉい! こっち来るなよ!」
「同じ方向に回避行動を取るなんて気が合いますね、私たち!」
「前向きな解釈をするな!」
俺には相性最悪だとしか思えないんだが。このポジティブさんめ。
今度は左側に逃げる。が、ママチャリも俺を追いかけるように方向転換した。
「おま、わざとやって――ぐふぅ!」
言い終わる前に、俺の腹にカゴが衝突した。腹部に経験したことのない衝撃を受ける。
金髪少女はというと、俺に当たって失速した自転車から飛び降りてキレイに着地。彼女の愛車は大きな音を立てて倒れた。
俺はその様子を見ながら後ろに吹っ飛んだ。背中からアスファルトに叩きつけられる。あ、なんか息ができません。
視界には雲一つない青空が映る。どうしてこうなった……。
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