第15章

18/39
前へ
/973ページ
次へ
十蔵さんてば、ずるいわ。 諸肌脱いだとらさんに、そんなに密着しちゃうなんて。 しかも、色気美形と爽やかイケメンで、なにげに絵になってるところが、微妙に悔しいっ。 ……って、あれ? 「ねぇねぇ、てゆうか千代菊さんは? 千代菊さんがお手当してたはずじゃなかったの? なんで千代菊さんが居なくなってて、十蔵さんが包帯巻いてんの?」 「千鶴なら、客の座敷に出てる。 傷の具合を診て薬の塗布までやったら、後は十蔵でも事足りるからな」 「あ、そうなんだ。今夜も何組かお客さん来てたもんね」 一時よりは少ないけど、それでもまだお客さんはみえているんだって滝さんが言ってた。 江戸の町は、幕府がなくなってもまだ普段通りに動いてる。 「そういうことだ――――ところで葵、いつまで十蔵の手を掴んでる? 早く離せ」 「え? あ、ほんとだ。ごめんなさ……じゃなくて! 違うのよ。私、十蔵さんに包帯役、代わってもらいたいんだもん。 お願い、十蔵さん。代わって?」 「はい、承知しました」 やった! さすが十蔵さん、物分かりが早いわ。 サッとどいて、「包帯はこう持ってこの向きに巻いてください」って、巻き方まで親切に教えてくれるし。 『ずるい』って言って腕に飛びついたまんまだった私に、とらさんみたいなツッコミなんか入れずに、じっとしててくれたしね。 今もすぐ横で、懇切丁寧に指導してくれてるのよ。 ほんと優しいわよね! 「……お前ら……俺の前で堂々と目と目で会話するなよ」 ん? 何のことかしら? よくわかんないから、無視ね。無視! それより、包帯を綺麗に巻き終わることのほうが、私にとっては優先事項なんだもんっ。
/973ページ

最初のコメントを投稿しよう!

818人が本棚に入れています
本棚に追加