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十蔵さんてば、ずるいわ。
諸肌脱いだとらさんに、そんなに密着しちゃうなんて。
しかも、色気美形と爽やかイケメンで、なにげに絵になってるところが、微妙に悔しいっ。
……って、あれ?
「ねぇねぇ、てゆうか千代菊さんは? 千代菊さんがお手当してたはずじゃなかったの?
なんで千代菊さんが居なくなってて、十蔵さんが包帯巻いてんの?」
「千鶴なら、客の座敷に出てる。
傷の具合を診て薬の塗布までやったら、後は十蔵でも事足りるからな」
「あ、そうなんだ。今夜も何組かお客さん来てたもんね」
一時よりは少ないけど、それでもまだお客さんはみえているんだって滝さんが言ってた。
江戸の町は、幕府がなくなってもまだ普段通りに動いてる。
「そういうことだ――――ところで葵、いつまで十蔵の手を掴んでる? 早く離せ」
「え? あ、ほんとだ。ごめんなさ……じゃなくて!
違うのよ。私、十蔵さんに包帯役、代わってもらいたいんだもん。
お願い、十蔵さん。代わって?」
「はい、承知しました」
やった! さすが十蔵さん、物分かりが早いわ。
サッとどいて、「包帯はこう持ってこの向きに巻いてください」って、巻き方まで親切に教えてくれるし。
『ずるい』って言って腕に飛びついたまんまだった私に、とらさんみたいなツッコミなんか入れずに、じっとしててくれたしね。
今もすぐ横で、懇切丁寧に指導してくれてるのよ。
ほんと優しいわよね!
「……お前ら……俺の前で堂々と目と目で会話するなよ」
ん? 何のことかしら?
よくわかんないから、無視ね。無視!
それより、包帯を綺麗に巻き終わることのほうが、私にとっては優先事項なんだもんっ。
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