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「――へぇ、そんなにたくさん血が出るの? お尻の怪我って」
「そうなんだよ。出血多量で、もう少しで命に関わるところだったと言われたんだよ?
それなのに、とらときたら、その傷口をあのように手酷く踏みつけてくれてねぇ。本当に心の狭……いや、血も涙もない男だよ」
「全くよねぇ。怪我人に対して、アレはないわよねー。
――――あら、このお饅頭、すごく美味しいわ。さっきの芋餅も美味しかったけど」
「だろう? こちらの栗最中もお勧めだから召し上がれ」
「わーい、ありがとう!」
「……おい、葵。お前、先程から堂々と俺の悪口を言っているが、自分が今どこに居るのか、ちゃんと分かっていて言っているのか?」
「ほぁ? おああんぉ、ぃあおぅえあぁぁ?」
「……いや、良い。まずは、その口いっぱいに頬張った栗最中を咀嚼してしまえ。
それと、笑いながら噛むから、最中の皮で口の周りが酷いことになってるぞ。見苦しい」
んまっ、何よ。酷いのは、とらさんのほうじゃない?
『今どこに居るのか』って聞くから、『とらさんの膝の上』って、ちゃんと答えたのにっ。
てゆうか、荒井さんにお菓子勧められて抱っこから解放してって頼んだら『このまま食え』って、私を抱っこしたまま荒井さんの枕元で胡座をかいたのは、どこの誰よ。
なのに、『見苦しい』とか、女の子に対してかなり酷いん……。
「……んゃっ!」
「見苦しいから、俺が綺麗にしてやろうな?」
あぁあああ! 舐めた!
そして、噛んだ!
私の唇についてた最中の皮に歯を当てて、こそげ取るみたいにカリッてしたわよ、このひと!
「あぁ、此処にもまだついてるな。どうする?
取ってもらいたかったら、自分から後ろを向け」
むっ、向くわけないじゃん。何、言ってんの?
千代菊さんと十蔵さんが滝さんに呼ばれて席を外してるとはいえ、ここにはまだ荒井さんが……あれ? 居ない。
今までお布団でうつ伏せになってたはずの荒井さんは、いずこに……って、居た!
赤ちゃんのハイハイのごとき動きで襖の向こうに消えてく後ろ姿、発見!
そんで、めっちゃにっこり笑って襖を閉めてったわ。
「まずは、上唇から綺麗にしてやろう」
ちょうどその時、栗最中を全部飲み込んだところだった。
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