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「ふぅ……巻けた」
「お上手ですよ、葵様。お疲れ様でございます」
「ほんと? 嬉しいな。十蔵さんの丁寧な指導のおかげよ。ありがとっ」
うんうん、我ながら綺麗に巻けたわよぉ。
とらさんたら、お胸回りにもお腹にも、さらには腕にも立派な筋肉つけちゃってるもんだから目の毒すぎて手がちょっと震えたけど、なんとか堪えて頑張ったわ、私。
それもこれも、十蔵さんのおかげっ。
くいくいっと左右に首を伸ばして、巻き終わり部分までを再チェックし、十蔵さんと目を合わせながら満足感に浸った。
とらさんのお役目がどんなに激務でも、これならそうそう簡単に緩んだりしないはずよ。
「……だから、俺の前で堂々と微笑みを交わし合ったりするなよ。お前ら……」
ん? また、なんか言ってるわ。とらさんてば。
ま、わけ分かんないからコレは当然スルーなわけよ。でもね――
「ねぇ、とらさん。良かったね。
こんな風に包帯巻かなきゃいけない怪我はしちゃったけど。でも、これだけで済んで本当に良かったね。
……ほんと、良かった……うっ……」
やだ。今まで我慢してたのに、涙出てきちゃった。
「帰ってきてくれて、嬉しい。ありがっ……」
「葵っ」
最後まで言い終える前に、腰が掬い上げられた。
広い胸に閉じ込められるように、ぎゅっと抱きしめられる。
あったかい。あったかいなぁ。
こうして温かさを感じられることが、こんなにも嬉しい。
……でも……うん、嬉しいのは嬉しいんだけどね。
その……いま視界の端でね。
宗次郎さんが用意してくれたとらさんの着替えが入った風呂敷を置いて去っていった十蔵さんが、ものすごく優しい目でこっちを見てたから、めちゃ恥ずかしい。
その口元が、『葵様、良かったですね』って動いたのが、はっきり分かったから、余計に。
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