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「お前、十蔵と品川に行っていたんだろう? 聞いたぞ。
あんなところにまで悪かったな。疲れたろう?」
「ううん、大丈夫。大丈夫よ」
抱きしめてくれた腕が少し緩んで、後頭部と背中がゆっくりと撫でさすられた。
いたわりを込めた手の動きが、とても優しい。
ずっと心配してたこととか、不安でたまらなかった気持ちが、その温かさで上書きされていく。
良かった。本当に良かったぁ。
うーん、でもね? 何か忘れてるような気がするんだよね。
何だったかな? えーと、ついさっきまで話してたことなんだけど。確か、荒井さんが……。
「……あーっ、思い出した! 宵月先生よ!
とっ、とらさん。とらさんこそ大丈夫だったのっ?
胸っ……この、お胸は無事だったのぉ!?」
あのホモォな先生にベタベタ触られたりとか、してないのっ?
「うあっ! 馬鹿、叩くな。そこが傷口だ!」
「えっ?」
……あ、あら、いけない。またヤッちゃった? 私……。
「――あははっ。それで、とらの叫び声が聞こえてきたのか。
私は、てっきり何か良からぬことに及んで殴られたのかと……ぶっ、くくくっ」
「郁さん、笑いすぎだ。それに葵、お前も勘違いで人の傷口を殴るな。
しかも、この俺が衆道目的の相手におとなしく触られてると思うのか? 全く」
「うぅ、だってぇ……」
とらさんてば、荒井さんのお布団横にドカッと陣取ってから、めっちゃ呆れ顔で私のこと見てくるけどー。でもでも、本気で心配したんだもん。仕方ないじゃない?
「それに、俺も今までに男女問わず色んな誘いを受けてきてるから、あの先生の嗜好も、その好みが自分じゃないことも、最初に気づいてたしな。
あそこには、もうひとり男が居たが、狙われてたのは郁さんだけだったぞ」
「あっ、『もうひとり』って、原田さん?
とらさんたち、もしかして原田さんと仲良くなったの?」
うわぁ、すごくない? あの! 『新選組の原田さん』よ?
その原田さんと仲良くなっただなんて、すごすぎ……。
「あ? 少し交流を持ったぐらいで、別に仲良くはないぞ。
新選組のヤツらとは、同じ船で帰ってきただけだし」
「……え……」
ヤツ、ら……?
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