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「おい、答えろよ。いや、まず郁さんから、その手を放せ」
「きゃっ」
いつもより低い声が近づいてきたと思った時には、力強く手首を掴まれ、荒井さんの手を振り落とすような動きで、ぐいんと離されていた。
「とらさん……」
強引で乱暴なそのやり方に相手のカオを見返せば、思いっきり不機嫌そうなしかめっ面とぶつかる。
「……あ、ふふっ……」
きつく眉をひそめたカオを間近で見て、つい、笑みがこぼれてしまった。
やだ、私ったら不謹慎。
「おいっ、何を笑ってる? 大体、お前はいつも……」
あー、うん。さらに怒って当たり前よねー。
「とらさん、ごめんなさい!
あのね? つい笑っちゃったのは、とらさんのこと『綺麗だなぁ』って。
『ものすごいしかめっ面なのに、私の好きな人はなんて綺麗なんだろう』って感心しちゃって。
そんな場合じゃないのに、そんな不謹慎なこと考えた自分を笑っただけなの。
ごめんね? 怒らないで?」
だから、ちゃんと謝った。正直に全部ぶちまけて。
「あ……え? おまっ……何だ、その理由は……」
そしたら、頬をぴくぴくとひきつらせた珍しい反応が返ってきたから、もう少しつけ加えてみた。謝罪と説明が足りないのかと思って。
「おかしいよね? ほんと、ごめんね?
でも、とらさんてば、どんなカオしてても綺麗でカッコいいんだもん。仕方ないと思うの」
「……っ……あー、もう良い。お前、もう喋るな」
「え? まだ説明あるのに。いいの? 怒ってないの?」
「構わん。怒ってなどいない。だから、もう喋るな」
そう? もう怒ってないならいいけど。
でも、ぷいって横向いちゃったから、まだ怒ってるような気がするんだけどなー。
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