第15章

22/39
前へ
/973ページ
次へ
「おい、答えろよ。いや、まず郁さんから、その手を放せ」 「きゃっ」 いつもより低い声が近づいてきたと思った時には、力強く手首を掴まれ、荒井さんの手を振り落とすような動きで、ぐいんと離されていた。 「とらさん……」 強引で乱暴なそのやり方に相手のカオを見返せば、思いっきり不機嫌そうなしかめっ面とぶつかる。 「……あ、ふふっ……」 きつく眉をひそめたカオを間近で見て、つい、笑みがこぼれてしまった。 やだ、私ったら不謹慎。 「おいっ、何を笑ってる? 大体、お前はいつも……」 あー、うん。さらに怒って当たり前よねー。 「とらさん、ごめんなさい! あのね? つい笑っちゃったのは、とらさんのこと『綺麗だなぁ』って。 『ものすごいしかめっ面なのに、私の好きな人はなんて綺麗なんだろう』って感心しちゃって。 そんな場合じゃないのに、そんな不謹慎なこと考えた自分を笑っただけなの。 ごめんね? 怒らないで?」 だから、ちゃんと謝った。正直に全部ぶちまけて。 「あ……え? おまっ……何だ、その理由は……」 そしたら、頬をぴくぴくとひきつらせた珍しい反応が返ってきたから、もう少しつけ加えてみた。謝罪と説明が足りないのかと思って。 「おかしいよね? ほんと、ごめんね? でも、とらさんてば、どんなカオしてても綺麗でカッコいいんだもん。仕方ないと思うの」 「……っ……あー、もう良い。お前、もう喋るな」 「え? まだ説明あるのに。いいの? 怒ってないの?」 「構わん。怒ってなどいない。だから、もう喋るな」 そう? もう怒ってないならいいけど。 でも、ぷいって横向いちゃったから、まだ怒ってるような気がするんだけどなー。
/973ページ

最初のコメントを投稿しよう!

818人が本棚に入れています
本棚に追加