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「ふふふっ。毎度、ご馳走さんだねぇ。おふたりさんは」
そこに、変わらずにうつ伏せのまま、ずずっとお茶を飲み干した荒井さんの声が割って入ってきた。
そして、ゆっくり横向きに体勢を変えて腕を曲げて手枕にし、私から顔を背けてるとらさんを斜めに見上げて笑った。
「葵さん。この様子なら、もうとらは何も茶々を入れてこないだろうから、私があなたの要望に応えようか。
新選組のことを聞きたいのだろう?」
「あっ、うん! うん、お願いっ」
きゃー、さすが荒井さん! 話が分かるぅー!
ウキウキ立ち上がった私は、とらさんの横をスキップで横切り、荒井さんのお顔の正面にすちゃっと座った。
「よろしくお願いしますっ」
食べかけだった芋餅とお茶も持ったし、準備万端よ。
ヘイ、カモン! いつでもOK!
「さて、何から話そうか――」
準備万端の私を見て微笑んでた荒井さんだけど、ふっと天井に顔を向け、ふた呼吸ぶんくらい目を閉じた。
そうして、また目を開け、おもむろに口を開いたの。
「……鳥羽伏見の戦が敗戦に終わった後、負傷した私たちを含めた幕府海軍の将兵は、皆、大坂(おおざか)城を目指したんだよ。
総大将の慶喜公が、そこにおられたからね。
が、私たちが城に到着した時、既に総大将は城をあとにされていた。その前夜に江戸に向けて脱出されていたんだ」
この話、やっぱり本当だったんだ。
千代菊さんから聞いた時は、総大将なのにそんなことが有りうるの? って思ったけど。
「まぁ、驚いたよねぇ。しかし、総大将がおられないなら我々も引き揚げるしかない。
私ととらは、同じ軍艦頭の榎本武揚(えのもと たけあき)とともに、他の負傷者たちを連れて富士丸という船で出航したんだ。
そして、その同じ船に、新選組の面々も同乗していたというわけだよ」
きたきたー!
いよいよ、リアル新選組の話題が聞けるわよっ。
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