1 雨山 スズネ

1/5
273人が本棚に入れています
本棚に追加
/291ページ

1 雨山 スズネ

「秋哉くん、本当に大丈夫なの?」 新学期になったから普通に登校しようとするオレに、同居人のスズネが眉を寄せて話しかけてきた。 「大丈夫って何が?」 オレは玄関のたたきに座って、ハイカットのコンバースに少々手こずりながら聞き返す。 ナツキがくれたやつだけど、履くのメンドクセェ。 するとスズネは、 「その……、胸の傷」 と言いながら、オレの開いたシャツの間に目を落としてきた。 それでもってすぐパッと視線を逸らす。 「あ?」 オレはTシャツは着ない派だし、指定シャツのボタンもメンドクセェから、ふたつみっつは開けてある。 ちょうどオレの頭の上から、素肌を覗き込むような形になったから、目のやり場に困ったんだろうけど。 ガキの素肌に、こんなに単純に反応する大人はいないだろう? 照れたというより、どうやらオレは、  ――スズネに嫌われているらしい。
/291ページ

最初のコメントを投稿しよう!