第1章 1月30日

3/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 寒さが、体に染みた。  駅に、二人。センスがなくても、誰も見てはいない。  沢子は、徹郎の手を取って、奪った。 「結局、着けるんかい」 「着けますよ。女の手は、繊細ですから」 「繊細ねぇ……」 「しわっしわの、ひび割れた手の方が好きですか?」 「いや……」  好きにしろ、と思った。  徹郎はページをめくった。読んでなかったが、動きがほしかった。純文学の、為になる言葉が無駄に零れていった。  最低気温は二度。この冬は平年に比べて暖かかった。年を跨いでも、積雪はまだ五センチに満たない。  随分と歩き易い。おかげで、親も車で送ってくれない。よって、今の二人があった。雪国は、意外と堕落している。冬に対する備えが、十分過ぎるからかもしれない。  田舎だから、外の情報はテレビやインターネットで知る。SNSで、同い年の連中と繋がれた。  自分たちの常識は、そのまま世間の常識ではなかった。 「こないだ、テレビで見たんだけど……」  徹郎は、自慢を込めて言う。 「パンが、都会では流行っているらしい」 「パン?」  沢子は眉をひそめた。  言ってることがわからない。 「もしかして、パンケーキですか?」 「そうそう」  徹郎は頷く。大よそ、自分の間違いになど気付いていない。 「パンケーキかぁ……」  沢子は思いを馳せた。異国の話にすら思えた。  流行など、自分の住む町には縁遠い。 「行列、並んでみたくありません?」  沢子は、彼に尋ねた。 「並んで、みたいようなみたくないような……」  徹郎は、沢子ほどときめいてはいなかった。どちらかというと、巨大な建造物に憧れる。  ちらちらちら、  ちらちらちら。  風のない日、雪はゆっくりと地面に落ちる。  風のない町で、今日もゆっくり、時間が流れる。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!