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寒さが、体に染みた。
駅に、二人。センスがなくても、誰も見てはいない。
沢子は、徹郎の手を取って、奪った。
「結局、着けるんかい」
「着けますよ。女の手は、繊細ですから」
「繊細ねぇ……」
「しわっしわの、ひび割れた手の方が好きですか?」
「いや……」
好きにしろ、と思った。
徹郎はページをめくった。読んでなかったが、動きがほしかった。純文学の、為になる言葉が無駄に零れていった。
最低気温は二度。この冬は平年に比べて暖かかった。年を跨いでも、積雪はまだ五センチに満たない。
随分と歩き易い。おかげで、親も車で送ってくれない。よって、今の二人があった。雪国は、意外と堕落している。冬に対する備えが、十分過ぎるからかもしれない。
田舎だから、外の情報はテレビやインターネットで知る。SNSで、同い年の連中と繋がれた。
自分たちの常識は、そのまま世間の常識ではなかった。
「こないだ、テレビで見たんだけど……」
徹郎は、自慢を込めて言う。
「パンが、都会では流行っているらしい」
「パン?」
沢子は眉をひそめた。
言ってることがわからない。
「もしかして、パンケーキですか?」
「そうそう」
徹郎は頷く。大よそ、自分の間違いになど気付いていない。
「パンケーキかぁ……」
沢子は思いを馳せた。異国の話にすら思えた。
流行など、自分の住む町には縁遠い。
「行列、並んでみたくありません?」
沢子は、彼に尋ねた。
「並んで、みたいようなみたくないような……」
徹郎は、沢子ほどときめいてはいなかった。どちらかというと、巨大な建造物に憧れる。
ちらちらちら、
ちらちらちら。
風のない日、雪はゆっくりと地面に落ちる。
風のない町で、今日もゆっくり、時間が流れる。
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