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「じゃーねーカエデ」
「うん。ばいばーい。マユ」
マユは逆方向のホームだ。ここで分かれる。
今日は炎天下だった。夕方になれど、この猛暑の季節はとてもつらい。いくら元気な高校生いえどもこの熱さにはかなわないはずだ。現にわたしがそう。
「うぅー熱すぎ」
ホームへの階段を上っている最中そんな言葉が出てしまう。
死ぬような暑さを抜けてたどりついたホームには人が幾多の行列を作り並んでいた。
「うわぁ。これは座れないなぁ」
最悪だ。こんな暑い日に座れないのは部活後でなくてもつらいものだろう。
蟻の行列のような長い列の最後尾に並び、スマホをみる。
電池残量はあと47%。これなら家までの暇つぶしも出来るだろう。かばんの中からイヤホンを取り出し、耳につける。音楽アプリを立ち上げてお気に入りのプレイリストをシャッフル再生。そしてスマホを胸ポケットへ。これがわたしの帰宅時のスタイル。
ホームの天井から吊り下げられている電光掲示板を見る。
待っている電車は一駅前だ。もうすぐ来るだろう。
音楽は1曲目の最初のサビ。
「むぅー。暑い。」
早く来てください電車様。その冷房の冷気早く浴びたいんです!と、心の中で祈る。
2曲目の入りと同時に電車が来た。
ゴォォォと、音を鳴らして右に反れているホームに旧型の電車が突入する。
キィィィィィップシュゥン。そんな音を出して電車がとまる。
ドアが開く。そうすると人が雪崩のように出てくる。わたしがいる列の最後尾は電車を降りた人がわたしの前の人との間を無理やり割り込んで改札への階段へ颯爽と駆けていく。
...正直、ウザい。と思うが、今は早く電車に乗りたかったのでそんなことを気にしない。
早く、速く、電車の中に!!
スゥーっと、冷気が体の回りを駆けわたる。
涼しい。やはり文明の利器はすばらしい。
あたりを見回す。空いている席がないかどうか確認するためだ。
じーっと。
あ、一人分だけぽっかり空いている。立っている人が多い中あそこだけ空いているなんて珍しいことだ。
座ろう。あの席に。わたしは決意する。
わたしは進んでいく。その空いている奇跡の空間まで。一直線に。その空間をわたしという槍で穿つように。
スッと座る。完璧だ。
こうやってわたしは奇跡の空間を手に入れた。
「ドアが閉まりまーす。ご注意くださーい」
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