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彼の話し方から察するに、どうやらこの家には既に“左手用”のハサミが存在するらしい。
希望を持てる情報に斎藤は嬉しくなってくる。
「ち、ちにゃみにちょれは今ろ(ど)こにあう(る)のかごぢょんじれちゅか?」
然り気なさを装って尋ねれば、だが永倉は腕を組んで唸り出してしまった。
一昨日の事なのに彼は覚えていないらしい。
斎藤は心の中で“頑張って思い出せ!”と必死に応援したが、その甲斐も虚しく永倉は肩の力を抜いて諦めた。
「悪ィ、全然思い出せねーわ。総司が面白がってどっか持ってった気がするんだが……」
その先はわからないと言う彼に、己の消沈ぶりをひた隠しにして斎藤は首を横に振る。
最後に触ったのが総司なら永倉に非はない。
そう、仕方がないのだ……。
「こちあ(ら)こちょわじゃわじゃ思い出ちていちゃらいちぇ、あいがちょごぢゃいまちゅ」
「別にいいってことよ!困った時はお互い様だしな♪へへっ」
そう言うと永倉は二個目の握り飯をパクつきながら空いた手を振り、リビングを後にした。
それを見送ってふぅと斎藤は小さく息を吐く。
少しずつだが望んだものに近づいている気がして、何故だかワクワクと心が弾んだ。
こんな気持ちは一体何年ぶりだろうか……?
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