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斎藤が現代に目覚めて早1週間になる。
彼よりも先に訪れた者たちは、既に此処の環境にも馴染んで快適に過ごしていた。
だが如何せん『斎藤一』という男は、真面目過ぎるが故に未だ苦戦しているようだった。
『はじめくんは考え過ぎなんですよ。いっそ楽しんじゃえばいいのに……』
とは彼の元同僚の沖田総司が言ったもの……。
そんな呑気なとは思うが、“三馬鹿”こと何事も朗らかな永倉や左之助、平助などを見ていると悩んでいるのが馬鹿らしくなってくる。
が、それはそれ……。
ふうっと深い溜め息を吐くと斎藤は、手元のハサミとしわくちゃになってしまったチラシを睨み付けた。
先ほどから彼はチラシに付いているクーポン券を、ハサミで地道に切り取っていく作業をひとり黙々と行っている。
つぐみの住む地域では集客率を上げる為に店側がチラシに、その日の売り出し商品と共にクーポン券を掲載していた。
何か仕事はないかと尋ねたら、祥子にこの作業を言い渡されたのだ。
自分に任された仕事なのでちゃんと最後まで成し遂げたいという思いはある。
だが残念な事に彼は利き手が左な為、上手くハサミが扱えず、実は悪戦苦闘していた。
なんとか数枚は切り終えたところだが、見事に切り口はガタガタで見栄えは最悪……。
果たしてこれがクーポンとして使えるのか、甚だ疑問を感じる仕上がりだった。
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