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しかも普通ならとっくに終わっていてもおかしくない作業なのに、まだ大量に残っていて終わりが見えないときている。
「どうちてこんにゃあちゅかい難いもにょがあうにょあッ!! 」
バンッと応接間のテーブルに手を叩き付け、彼は誰ともなしに文句を言う。
どうやら遂にイライラがピークに達し、切れないのはハサミのせいだと憤慨して怒り出すかつての剣豪、斎藤一……。
「斎藤はん、こんなトコで何してんのや?」
裏庭で洗濯物を干し終わった山崎が、洗濯カゴを両腕に抱えながらひょっこりとリビングに顔を出す。
開け放たれたままになっていた扉から、眉間に皺を寄せてハサミを睨み付ける斎藤の姿が目に入り、わざわざ声を掛けてくれたらしい。
山崎自身つぐみに頼られ毎日忙しい日々を送っている筈なのに、気配り上手な彼はどんな時でも周りに目を向け、さり気なく手を差し伸べてくれようとする。
斎藤の目指すべき人物のひとりであり、なかなか越えられない最大の壁だった。
「なんや、チラシの切り取りかいな。今日のは随分と多いなぁ、手伝おか?」
「いあ(や)、こえ(れ)はワタチの頼まれちゃちごちょ(仕事)でちゅにょでお気ぢゅかいにゃく」
気を利かせ手伝いを名乗り出てくれた彼に、けれど斎藤は首を横に振る。
本来ならばこのような仕事に手伝いは不用なのだ。
なのに自分がいつまでも手間取っていた為、山崎も見兼ねたのだろう。
それがどうにも歯痒かった……。
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