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子供でもないのにハサミの正しい使い方がわからず、まともに扱う事も出来ない自分にほとほと嫌気が差す。
確かに彼の身体は皆よりも幼くて不便ではあるが、それに器用さは関係ないのだ。
加えて斎藤が不器用なのは生前からで……。
ハサミひとつ満足に使えないのは己の精進が足りない証拠。――彼はそう考えてしまっていた。
「……まぁええけど、無理しなや?誰にでも向き不向きがあるんやから。そんなんで斎藤はんの技量は測れへんのやし」
以前から斎藤の心境を察していた山崎は、彼の自尊心を傷付けないようやんわりと宥めてから部屋を出ていった。
「山崎しゃんにまれバレちゃか……。この分らと皆にちられるにょもぢかんにょもんらいらにゃ」
自嘲気味に笑うと斎藤は深く息を吸い込んでゆっくり吐き、再びハサミと向き合う。
苦手意識を抱いてはいけないと自分自身に言い聞かせ、なんとかそれを手に持った。
チョキチョキ、チョキチョキチョキ……ジョリ
「―――あぅっ、」
調子よく進んでいたと思っていたのに、やはり途中でハサミの噛み合わせが悪くなり、紙を噛み込んでしまう。
何度やってもこうなってしまうので、もうお手上げ状態だ。
もしかすると本当にこのハサミに不具合があるのかと彼は疑った。
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