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しかも斎藤に助けを求めるような眼差しを向けてくるので、堪らずギッギッギッと顔を正面に戻してそれらを見なかった事にした。
恐らく近藤がまた懲りずにつぐみにちょっかいを出し、敬助の怒りを買って土方が強制撤去してきたのだろう。
これに関しては“触らぬ神に祟りなし”だと長年の勘が告げていた。
「祥子しゃんにこえ(れ)を切っちぇおくおーに頼まれちゃのれ……切っちぇまちた」
「それは見りゃわかる。俺はその眉間に寄った皺はどうしたんだって聞いてんだ」
「―――ッ!? 」
さすがは副長……と、言いたいところだが誰が見てもわかる状況に、しかし彼は気づいていない。
目を見開いて驚愕した。
大方の見当はついているのか、土方は何も言わない。ただ無言で斎藤の握るハサミを見て深い溜め息を吐いた。
真面目すぎる彼にどう諦めさせたものかと、土方は恐らくそんな事を思案しているのだろう。
そしてぶっきら棒にそっぽを向いて言う。
「あ~、つぐみに新しいハサミを出して貰ったらどうだ?」
暗にそのハサミが全て悪いのだと示唆して、気を逸らせるという作戦のようだ。
それなら彼の矜持も保てると踏んだのだろう。
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