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「つぐみならさっき、山南さんと総司とを引き連れて隣の寺の住職んトコに回覧板届けに行ったみてーだから、あとで戻ってきたら聞いてみるといい」
「あいっ、ちょーちまちゅ!」
土方が彼女の所在を丁寧に教えてやれば、斎藤は顔を綻ばせて勢い良く頷いた。
先程までこの世の終わりのような落ち込み具合だったのに、まったく現金なものだ……。
けれど大事な部下の憂いを取り除けられて、彼も晴れやかな気分となる。
斎藤の頭をポンポンと撫でると、手の中で大人しくしていた近藤をぶら下げたまま土方は静かに去っていった。
「ちゃちゅがは土方しゃんら!」
「何が“さすが”なんだ?斎藤……モグモグ」
不意に今度は食堂の方から声を掛けられた。
―――今日はよく声を掛けられる。
だが今は朝の9時半、朝餉は疾うに終わっていて昼にはまだ早い時刻に食堂は誰も用がないはずで……。
そこから出てくる人物に彼は自然と眉間の皺が寄る。声の主は――やはり永倉だった。
手には自分で握ったのか、大きな握り飯がふたつ握られていた。
肩にはタオルを掛けており、一目で剣の稽古で体力を消耗し、小腹が減ったので食堂へ立ち寄ったという感じだ。
その姿に斎藤は深く溜め息を吐く。
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