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「永くや(倉)しゃん、何度も申ちておりまちゅがちゅまみ食いはっ―――…」
「まあそう堅いこと言いなさんなって!代わりに働けばつぐみは幾らでも食えって言ってくれてんだし、な?」
朗らかに言われて斎藤もそれ以上は返せない。
確かに家主の祥子やつぐみが構わないと言っている以上、彼はどうすることもできないのだ。
だからといって食料は無尽蔵ではない。
あまりいい顔をしない斎藤に、永倉は気にした風もなく彼の手元を見る。
「それ、現代の“ハサミ”とかいうやつか?」
「う?ちょうでちゅが……」
唐突に話し掛けられて面喰らう。
しかし常に平常心を心掛けている斎藤は少しも狼狽える事なく答えた。
が、テーブルの上に広げられたチラシの残骸が目に止まり、慌てて手にしていたハサミを手離しそれらを片すという醜態を曝す事となる。
一瞬だけ永倉の動きが止まったが、彼も敢えてその事には触れず、無造作に置かれたハサミを手に取った。
「よくはわからねーがこれ、右手用と左手用があるらしいな?」
「―――えっ、ちょーなんれちゅかッ!?」
意外な人物からの朗報に斎藤は驚く。
何でも一昨日、幾ら切っても切れないハサミがあるのでつぐみに尋ねたところ、そう言われたのだという。
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