第1章

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「どうしよう」  彼は本当に悩んでいる声でそう言った。 「今戻っても多分部室閉まってるよ。明日言うしかないんじゃない」 「土曜」 「そうだ今日金曜だ」  彼がクールな表情を崩すことはないが、私にかかれば彼が何を思ってるかぐらいわかる。怖い面倒くさいヤダなんで壊れたんだろう死にたい。きっとそんなことを考えているはずだ。案外考えていることは単純だったりする。 「とりあえず帰ろう? 電話で言えばいいよ」  彼は頷いた。くるりと踵を返して、二人で歩き出したその時。 「おぉ、お前ら。今日部活来てたんだな」  聞き覚えのある声がした。恐る恐る振り返る。  顧問がいた。 「……!」  彼は猛ダッシュした。無言でひたすら走った。普段のインドアな印象からは想像もつかない速さだ。陸上部でも十分活躍できるぐらいの速さだ。そのぐらい、顧問と関わりたくないのだろう。 「ちょっと待って! あ、さよならっ」  私もちゃんと挨拶をしてから彼の後を追った。走っている途中になんだか馬鹿馬鹿しくなってきて、笑いがこみ上げてきた。彼の変化にいちいち戸惑っていたことも元通りになってほっとしたことも、ぐちゃぐちゃになってひとつにまとまり私の中にすっぽり収まった。彼に追いついて、腹の底から笑った。彼もつられたのか珍しく笑った。二人の笑い声の中、不安も顧問の存在も全て頭の中から吹っ飛んでいた。 「なんで……?」  顧問がそうつぶやいたことは、結局電話で謝罪したらしい彼から聞いた話だ。
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