第1章

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 頭の中が不安で支配された。他のことは考えられない。彼の表情が脳裏に貼り付いて剥がれない。本当は今すぐ彼の肩をつかみ何があったか問いただしたいが、証拠もないのにそんなことはできない。彼の表情が、態度が、何かありましたよって私に語りかけていてもちゃんとした証拠にはならないのが悔やまれる。  なんとか歩いていると、急に袖を引っ張られた。あたりを見回して理解する。曲がるはずのところをまっすぐ歩いてきてしまったようだ。しかも、曲がり角からはもう大分離れている。彼もここまで気がつかずに歩いてきたらしい。私みたいに何か考え事をしていたのかもしれない。  私にどうやって別れを告げるかだろうか、それとも私への恨みつらみだろうか? 思考はネガティブになっていくばかりで、とまらない。  考えすぎて、来た道を引き返す時も行き過ぎてしまった。また彼が袖を引っ張ったので、私は慌てて曲がった。彼が私の前を歩いている。追いつこうと少し早足になると、彼はピタリと止まった。 「どうしたの?」  彼は答えない。曲がり角を戻り、学校の方へ歩く。数歩いくと止まり、戻ってきたかと思うとまた学校の方へ行ったり来たり。何度か繰り返し、私のところへ戻ってきた。そのまま歩いていこうとするので、私はためらいがちに彼へ話しかける。 「学校に用があるんじゃないの? 忘れ物?」  彼は振り返り、首を横に振った。やっぱり様子がおかしい。私の心にわずかに残っていた「気のせいだと信じよう」という考えが潰える。これで何にもなかったら彼はただの不審者だ。考えにくいが、ここで私に別れを告げるつもりなのか? せめて近くにある公園とかがいい。彼の意図が分からず私はおどおどするばかりで。鼓動が早まる。何か私に言うことがあるのだろうか?  彼は覚悟を決めたように口を開いた。
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