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ここは彼岸の世。
此岸、つまり現世と常に隣り合わせでありながら、互いに干渉することのない世界。
人ならざるものが住む世界。
善も悪も全てが混交する世界。
たった五つの掟のみによって縛られた世界。
その世界の一角で多くの妖怪が闊歩し栄える繁華街がある。
一度灯された明かりは消えず、年中眠る事のないその場所を黄昏繁華街と云う。
砂利道の歩道には橙に輝く提灯が立ち並び、木造建築の様々な老舗が暖簾を立て掛けている。
繁華街は早朝だというのに活気で溢れ返り、妖怪たちは奇々怪々に騒ぎながら往来している。
そこに聳え建つ一際目立つ荘厳な木造建築の屋敷の長い廊下を、一人の青年が忙しなく歩いていた。
黒の男用の着物に身を包み、赤い帯で腰を締めている。
歩くたびに漆黒の髪が揺れ、汗一つ掻くことなく歩き、袖口から時計を取り出し、時間を確認する。
彼はここの屋敷の主人、誇り高き天狐の妖の世話役という大役を任されている。
そして、ある部屋の襖を勢いよく開ける。
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