第1章

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《世界は死を求めている。  だから産まれてすぐに死ぬ赤ん坊が無数にいるの。 あの死たちがあるからきっと世界は生かされている。 生が先でその後に死が来るのが普通だけど。  だけど。  だけど本当は何かが死んだから今のこの世界が産まれた。  なんてね。  そう考えたら私の死にも意味があると思えるじゃん。 私が死ぬことで何かが産まれるんだよ。 命は巡る。何かの役に立つ。  死は無意味じゃないんだ。  私の死は無駄じゃないんだ。》  そう言った彼女はもういない。彼女の死は何を産みだしたのだろうか。 僕にはまだわからない。僕に悲しみをもたらし、人はこんなにも水分があるのだとびっくりするほどの水が目から零れた。 こんなものが産みだしたものだとは思いたくない。もっと何か別の意味あるものを産み出していてくれ。  僕は世界の存在に意味を価値を求めるようになった。  彼女の死が無駄でないと思いたいがために。彼女の残した言葉を信じたいために。 《この世で一番最低の行為ってなんだと思う?  私は、  無視、  だと思うよ。  そこにいるのにいないとみなす。語りかけても返事しない。透明人間のように扱う。人を莫迦にした行為だよ。  だからさ。  だからね。  だから。  もし私たちが喧嘩したり、別れるとかになったとしても、最後はちゃんと話をしようね。  嫌いになってもいいから、罵倒してもいいから、無視だけはぜったいにしないでね。私はここにいるよ。嫌われようともいるの。》  彼女とは遠距離だった。すぐに会える距離ではないが、少し頑張ればなんとかなるような微妙な距離。その微妙さがなかなか会えない原因だったのかもしれない。  それでもあの時会いに行っていれば。後悔しても遅い。なんで行かなかったのか。確かに夜も遅かった。風邪気味でもあり疲れてもいた。でもちょっとだけ頑張れば行けた。またすぐに次の機会があると思うのはもうやめにする。次はないと思って今を生きなければ。彼女の分まで。 「最近、咳が止まらないの。風邪が長引いてる」電話越しに彼女はコホコホしながら言った。 「病院行った方がいいよ。風邪じゃないと良くないし、早めに治療した方が治りも早いよ」平凡な答えしか言えないが、まずは病院に行くべきだろう。 「うーん。そうなんだけどね。うちの親、最近別居したでしょ?だからなんか負担かけたくなくて」彼女の声は沈む。
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