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十真が果てしない闇の色をした双眸で、言ったーーとき、
「うぉおおおおおおお!!」
追い詰められた森は、激昂し、床に落ちていたハサミを持って、猛然と突進してきた。
十真がいる方向へ。
喜納が叫ぶ。
「彷徨!!」
初めて、その名前を呼んだ。
十真は動かない。
だが、怯えて竦んでいるわけではなかった。
刹那、空気を切る音がした。
ダンッ!!
一瞬のことだった。
十真がハサミの切っ先を避けたかと思うと、森の身体が床に叩きつけられた。
今のは何だ。喜納は呆然となった。
(まさか……合気道?)
十真が荒い息をつき、しゃがみ込んで、森の顔を覗き込んだ。
「あなたは、ただ娘さんのことを心配しただけなんでしょう」
静かな声だった。
静かな目だった。
その静謐さの前に、喜納も森も言葉を失った。
「娘さんを想うなら、潔く罪を認めて、自分のやったことの責任をとってください。
ーー大人なんでしょう?」
小学生(こども)のその言葉に、心動かされたのかどうか。
森は、おとなしく連行された。
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