第8章:『七色のお菓子』

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 十真は仕方なさそうに、 「ほんとに推測ですよ? たぶん、娘さん……陽香さんのためです」 「宮脇が陽香にかけおち、っつーか、逃避行を持ちかけたからか?  娘を犯罪に巻き込もうとした、父親の怒りか。  もしくは娘を奪われるっていう焦りからか」 「その理由もあると思いますけど、たぶん、もうひとつ」  十真はひどく慎重になっていた。  先ほどまで、あんなに毅然と、躊躇も淀みも無く事実を言い当てていたのに。  その理由が、喜納にはわかっていた。  十真は、ちゃんと識(し)っているのだ。  人の心は、その本人にしかわからない。  賢いーー否、聡明な子だ、と改めて思った。 「陽香さんくらいの年齢ーー十代の恋というのは、七色の味がするお菓子のようなものなんですね。  甘くて酸っぱくて、時たま苦くて。  当事者にとっては、生きるか死ぬかくらいのおおごとなんですけど、やっぱり夢みたいにひたむきで、全然計算的じゃなくて」  幼さと若さにだけに許された、恋愛の形がある。  喜納にはもう手が届かないそれは、守りたくなるほど尊い。 「それが犯罪者になった恋人との逃亡ーーなんてことになったら、途端に七色の味は、現実の、生々しい味がしてくる。  森さんは、絶対に娘さんにそんなものを味わわせたくなかったんじゃないでしょうか」
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