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「だから宮脇先生は、恋人である森陽香さんに電話をしたんです。
ーー『一緒に逃げよう』って」
保健室で、十真はそのことを陽香本人から聞いた。
今朝の五時過ぎ。突然の宮脇からの電話。彼はひどく焦りひどく怯え、哀願するように告げてきた。
ーー「頼む、陽香。一緒に逃げよう」
「そのあとは宮脇先生の気持ちになれば、自ずと答えは見えてきます。
何かで読んだんですけど、殺人を犯したある女性が、逃亡して真っ先にやったのが、自分の長い髪をハサミでばっさり切ったことだそうです。
自分の『特徴』を、消し去ったんです」
なるほど。
喜納はものの見事に納得させられた。
なるほど確かにあれは、判別しやすい『特徴』だ。
単なる時間稼ぎのように思えるが、人間というのは、なるべく他人を個別認識しやすいように記憶している、と聞いたことがある。
医者が白衣を脱いだ途端、患者に「あんた誰?」と言われるのもそのせいだと言われている。
モミアゲを失った宮脇なら、顔写真が公開されても、少なくとも一瞥程度ではわからないだろう。
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