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電車に乗り込むと、既に席は埋まっていた。
ドア近くのポールに掴まると、隣には吊革に捕まる高村くん。
「浅井は何で青雲にしたの?」
「逃げたの。」
「そっか。だろうと思った。」
「高村くんは?」
「俺は…親戚がこっちにいるし、いずれこっちに住むことになりそうだから…。」
「こっちに引っ越したら電車に乗らなくてもすむんだね。」
「そうなるな。」
「いつ引っ越すの?」
「後数ヵ月…
二年になった頃にはたぶん高校の近くに住んでる。」
遠くを見つめるように話す高村くん
その顔は無表情に変わっていた。
「通学が楽になるね。部活だって出来る。」
「部活はしないよ。バイトするから…」
「バイトかー。楽しそうだね?」
「そんな気楽なもんじゃないから…生きていくためだよ。」
「どういうこと?」
思わず見上げると、高村くんは車窓の流れる景色を無表情で見ていた。
その横顔はゾクッとするほど冷たく感じた。
「母親が去年亡くなって…
父親が再婚することになったんだ。」
「…。」
彼の口から胸が苦しくなるような言葉が零れ始めて、戸惑いの気持ちの中言葉を失っていた。
「母親が亡くなってまだ一年なのに、女が家に入ってくる。
そんな家にいられないだろ!?」
急に低い声に変わり見上げると怒りの籠った表情に変わっていた。
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