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 不味い、それが決まって嫌いとはならない。噛み締めると紙らしい味がして、そうか、これが魂のない味と哲学しつつ、取り敢えずの空腹を凌ぐのだが、如何か、先に残していようとしていなかったので、新品の紙しか思い当たらない。新品の紙は、なんだか温いので好みではないのだが、まあそれが紙らしいのだろう、初めてだ、真新しい紙を咀嚼を、また胃に下すのは。紙か、実に好きだ、あの紙は香料に似た、匂いがしていたので楽しみである、さて、あの紙はどうしよう。 ――紙と言う名詞は、本来人称が入るべきであったのだが、一人称や二人称や三人称で読むのもまた楽しいものであるし、その選択により違う色合いをした物語は展開され、特に全てが暗喩であり、読み方によれば一途な純情が作者には浮かぶのだ、とは言え、この物語に於いて読者が先ず浮かぶだろう物語は、一つが紙を人間に脳内で置き換えたふらふらとした倫理観のずれの話だが、次に紙をそのまま紙と読み、全ての暗喩を無視した瞬間は人称のない主人公が腹を下す姿が少々滑稽に浮かぶ、紙が好きな人間の話だ――。
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