二章

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 自分が見ているこの映像が本物であるとはわからない。 忘却の瘴気で失った名前と同様に、 だ。  だから、 ツムラは見えようが見えまいが、 視力には頼らない。 自分の耳を信じる。  「______届きませんでした」  「そうか」  務めて平静を装ったつもりだが、 声が明るくなったかも知れない。 あんな正体不明の傘など、 届かないほうがいい______あの御方はそうは思っていないようだが。  そんな事を考えていると、 副官が言葉を続けた「ですが」  「どうした」嫌な暗雲が胸を覆った。  「話すよりも詳細はこれで・・・・ちょっとディスプレイと繋いでいいですか?」  片手で副官を制する「ちょっと待て。 口で言え、 口で」  なんでです______副官は猛烈なブラインドタッチであっという間にディスプレイに報告書を送り込んだ「_____せっかくだから。 読んでくださいよ。 本物ですから」  ______本物ですから、 か。  
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