エピローグ 

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        常世に侵食されるまでは、 美しかったその街は、 今は往時の面影を遠影でのみ窺い知る事が出来る。 ゆっくりと近ずいてみれば、 車道には乗り捨てられたままの自動車、 縁の膨らんだ缶詰めが乱雑に散らかる商店、 狭い路地裏に迷い込めば持ち主を失ったカバンがちらほらと放置されている。 その街にはバッファーゾーンという猶予すら与えられずに、 消却の瘴気によって消え去った市民の暮らしの残滓が漂っていた。  かつて東欧の中心都市であったその街には多くの欧風の街がそうであるように、 街の中心部には石畳を敷かれた大きな広場がある。 その傍には高い尖塔を伴った威厳ある教会と庁舎。 それはもはや遺物であり、 荒れ果てるがままになっている。 その街の中心部は消え去った市民の残滓を踏みにじるように、 粗暴な暴力の気配に覆われていた。
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