10.推理が終わり……

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「……ける? 武―!」 目の前からどなったような大声が聞こえてきて、私はハッとなった。 ブレてる目の焦点を前方へと合わせると、直樹が心配そうな顔で私のことを見ているのが分かった。 「大丈夫? 急にボーッと、し始めちゃってたけど」 「……何でもないよ。ちょっと考え事をしてたんだ」 「……? そう。俺の話は聞いてた?」 「何?」 「やっぱり聞いてなかったのか。さっきの武の小説さ、ちょっと納得がいかない点を発見したんだけど」 ……納得がいかない点。 「? 何のことだ?」 なあ、直樹。 お前は私のこと、一体どこまで気がついているんだ? 私は心の中で直樹にそう問いかけた。 しかし、当然ながらその答えは返って来ない。 「いやさ、犯人はタケルなんだろう?」 「うん」 ああ、そうさ。 犯人はタケル、だ。 「だよね。なのにさ、死体を発見した時のタケルの反応がおかしくない? すごい驚いてるじゃん。自分が犯人なんだから、ここまでビックリするわけはないと思うんだけど? 『どういうことなんだ……? 私は声に出してそう云っていた。ホントにわけが分からなかった。どうしてこんな……』 ほら、ここの部分だよ」 直樹はその台詞が書かれたページを開き、指で上下になぞった。 しかしそれは、今の私にとっては至極どうでもいい質問だった。 「ああそんなことか。それなら矛盾はないよ。タケルは、『花瓶が割れていたこと』に驚いていただけなんだから。ほら? 読み直してごらん?」 「……ホントだ。その後の写真を撮る所は、『そう思った』、ではなく、『そう云った』、になってるね……矛盾はない……か」 「だろ?」 明るい口調でそう答えたが、直樹は納得がいっていない表情で首を傾げている。
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